御社の人材の資産評価額はいくらですか?

DX・DX人材, イノベーション

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。

今回は「従業員は資産か債務か?(”Are Employees Assets or Liabilities?”)」という、イノベーションの重要な要素である社員のもつスキルやノウハウを含む人的資源を、従来の会計では資産でなく人件費として扱っているが、それは妥当なのか?というお話です。
では本文をお楽しみください。

御社の人材の資産評価額はいくらですか?
~従業員は資産か債務か?~

2019年7月22日  ダン・トマ氏
従業員は資産か債務か?
ダン・トマ氏が”The Innovation Accounting bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

オスカー・ワイルドは、「皮肉屋とはあらゆるものの値段を知っているが、何の価値も知らぬ人間のことである」という言葉を残しています。世の中のほとんどの財務担当役員も、そうではないかという人がいます。

成功するためには、いかなる会社にも資産が必要です。
現金から株式、有形固定資産からのれん代まで、資産は多岐にわたります。より細かく見ると、資産は流動資産非流動資産2つの主な種類に分類できます企業の資産の想定的な流動性を識別するために、この分類を使ってバランスシート上の異なる部分にある資産を集約します。

長年の試行錯誤や利用実績にもかかわらず、財務会計システムでは価値創造プロセスの重要な側面が見落とされているのです。財務会計上の資産はどれも、人間の関与なしには顧客価値を創造できず、収益性を高められません。
例として、よくイノベーションラボに設置されている3Dプリンターを見てみましょう。
このプリンターは、会社の帳簿に有形固定資産として計上されています。しかし、プリンターだけでは何の価値も生み出せません。将来的に自社の次世代の主力製品となる可能性のあるプロトタイプを設計する人間が、プリンターには必要なのです。これと同じことが、他のすべての財務会計上の資産にも当てはまります。

ここでの大きな問題は、会計上の資産から顧客価値を生み出すための人的資源、時間やプロセスが、財務会計システムではOPEXすなわち事業の運営費用として計上されていることです。つまり、基本的にCFOの視点では、すべての社員は負債なのです。「社員が我が社の最大の資産です」というよくある美辞麗句とはかけ離れているのが実態です。

「社員が我が社の最大の資産です」という決まり文句は建前で、実際には経営者が財務会計システムの数字をもとに仕事をしている何よりの証拠は、費用削減が必要なときに経営者が最初にとる行動が解雇や賃金カット、研修費の削減であることです。

従業員(さらには企業文化やプロセス)を資産として計上することができれば、その資産の価値を高めることが企業の最大の関心事になるでしょう。企業は研修、メンタリング、研究開発、工程改善に時間とお金を投資し、資産価値を高めようとするでしょう。自分が大切にされていると感じれば、従業員の仕事への満足度も高まります。
その結果として、従業員の貢献意欲が増し、欠勤率や離職率が低下し、優秀な人材が確保できるので、生産性の向上につながり、雇用主にも恩恵が生じます。

既に人材を資産として扱い、帳簿に計上している優良企業があります。どんな組織かといえば、プロのサッカークラブです。マンチェスター・ユナイテッドPLC(PLC:公開有限会社)が、ニューヨーク証券取引所に提出した年次報告書によると、選手が貸借対照表で資産と扱われていることがわかります。

この報告書によると、選手の資産計上に関する会計処理は、他の資本資産と何ら変わらないことが見て取れます。具体的には、選手の獲得費用を資産とし、その選手との契約期間にわたって定額法で減価償却されています。

ただそうは言っても、例えば銀行が、サッカークラブのように従業員を扱うようになるかと言うと、そんなことを今さら期待するのは現実的でないでしょう。財務会計システムの代替手段として、無形価値の資産を表現可能な会計システムが無いとしても、CFOが始められることが一つあります。それは、財務会計資料を読み込み、戦略的資源を特定することです。
そうすれば、これらの戦略的資源は財務会計上の資産と同様に、より高い価値を生み出す優良資産へと育成・開発されていくでしょう。バルーク・レヴ教授によれば、戦略的資源には以下の特長があります。

  • 価値形成プロセスに直接寄与すること。例えば、特許申請や、新製品や新サービスの開発を行うなど。
  • 希少あるいは限定的であること。例えば、5Gの通信免許、ある空港の離着陸権や、銀行免許など。
  • 取り換えや真似が難しいこと。競合が簡単にまねたりコピーしたりできないこと。例えば、アップルのアップストアやザッポスの顧客サービス文化など。

自社の戦略的な資源を効果的に運用する企業は、競争の場で常に相手の一歩先を行くことができます。
現在および将来の競争相手を、自社を追いかける立場に常に追いやることで、持続的な競争力を獲得できるのです。

※本記事のオリジナルは「the Thinkers50 blog」に掲載されたものです。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「財務会計の3つの難題?(”The 3 Conundrums Of Financial Accounting”)」という、デジタル企業の活躍する現代社会において、長年の歴史を持つ財務会計の手法が抱える難問についてのお話です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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