ビジネスモデルの検証について我々が学んだこと("What we have learned about testing business models")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「ビジネスモデルの検証について我々が学んだこと("What we have learned about testing business models")」という、事業創造のフェーズで生み出した想定に基づくビジネスモデルの実現に向けて検証を進めていく際の課題についてのお話しです。では本文をお楽しみください。

ビジネスモデルの検証について我々が学んだこと("What we have learned about testing business models")

2020年6月25日
ビジネスモデルの検証について我々が学んだこと(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)


新製品/新サービスの2/3以上は顧客の期待に応えられていない。

優れたビジネスモデルは持続可能なビジネス成功の基盤だ。研究結果によると、ビジネスアイデアの90%は商業的に成功するまでに何度もの変更を経ており、また新製品/新サービスの2/3以上が顧客の期待に応えられていない。企業のほとんどが失敗する背景には、いくつかの典型的な理由がある。具体的には、事業を取り巻くエコシステムの変化に適応できないこと、古くて機能しないビジネスモデルに固執すること、新アイデア開発において不確実性を体系的に減らす構造が欠如していること、などが挙げられる。

過去数年にわたり、我々は革新的なビジネスアイデアを実現するために、世界中でいくつものビジネスモデル・イノベーションのプロジェクトに携わってきた。この記事では、新たなビジネスモデルのアイデアを検証する際に我々が直面した4つの課題と、なぜそのような課題が起きるのかについて解説したい。


課題1: 成功確率を高めるために適切なチームを構築すること

イノベーション・チームの構築は集中して取り組まなければならないミッションであり、組織文化を変えることでもある。最初の課題は、ジム・コリンズ氏が著書"Good to great(邦訳:ビジョナリーカンパニー2 - 飛躍の法則) "で述べているように、「適切な人材をバスに乗せる」ことだ。イノベーション・チームのリーダーは、日々の業務を進める上で「実際に手を動かすことを重視するメンタリティ」、「失敗を恐れないこと」、「今までの仕事のやり方にこだわらないこと」など、自社の標準的な従業員プロファイルにない特性を持った社員を探すのにたいてい苦労する。これらの3つの特性は、新しいビジネスモデルのアイデアを実行するうえで重要だ。

ジム・コリンズ氏の理論によると、リーダーはバスに適切な人材を乗せた後、各チーム・メンバーに適切な役割を与える、つまり「適切な人を適切な席に配置する」という難題に直面する。ビジネスモデル・イノベーションのプロジェクトでは、行動の基盤となる考え方に関して、プロジェクトの開発段階に応じて異なる特性が要求される。チームの各メンバーは、要件に関する情報がほとんどない状態で、非常に高いレベルで即興的に、このような特性を開発するか、あるいはは自らを成長させる必要がある。

最後に、過去のプロジェクトにおいて、事業部門のリーダー間の社内問題が原因でプロジェクトがとん挫するケースを我々は何度か目撃してきた。たいていの場合こうしたリーダーたちは、プロジェクトのミッションをどう伝えればよいか、イノベーション・プロセスを開始するうえで社内の誰が適任でどのような役割を担わせるべきかをわかっていない。


課題2: 正しい考え方を持っているからと言って、正しいスキルセットを持っているとは限らない

前述のように、新たなビジネスモデルに関する取り組みを開始する際には、企業は新しい考え方を持つチームメンバーを探し出す必要がある。ところが企業は、この課題と直接関連する別の課題にも直面する。それは、適切なスキルを持つチームを構築するという課題だ。ビジネスモデル検証時に体系的にリスク削減することについてのリーダー自身の経験不足と、必要スキルが一般的でないことが複合要因となり、必要スキルを適切に説明することがリーダーにとって難題となる。

よくある間違いは、新たなスキルの登場で既存のスキルはもはや重要でなくなると思い込んでしまうことだ。このような間違いは、取り組み開始前の段階で「既存の従来型スキルをどう活用するか?」「経験豊富な従業員に取り組みを支援してもらうためにどうすればよいか?」という2つの重要な問いが未解決のままになっていることが多いために発生する。

必要なスキルは方法論、実施方法からアジャイル・プロジェクトの管理まで多岐にわたるため、保有スキルと必要スキルのギャップ分析の実施は困難で、リーダーに対する社内支援や進め方の指導が提供されないことも多い。


課題3: 既存の各種プロセスにイノベーションを統合する

革新的なビジネスモデルの開発は、既存のすべてのプロセスに影響を及ぼす。ほとんどの企業はテクノロジー主導であるため、ビジネスモデル思考を確立し、ビジネスモデル・イノベーションの取り組みを開始すると、組織のトップレベルでの理解とサポートが不足する可能性がある。プロセスの変更は容易でないことから、企業にはビジネスモデル・イノベーションを既存の製品開発プロセスに統合するための経験が無く、また一定の取り組みアプローチも保有していない。その結果、ビジネスモデル・ナビゲーターなどの標準プロセスが、既存の各種プロセスとの互換性についてあまり考慮せずに実装されることになる。一般的にマネージャーたちは既存の枠組みを壊すことを好まないため、結果として、ほとんどの場合にプロジェクトの成功率が低下したり、社内の動きが鈍くなる。


課題4: 想定に基づく探索は直感に反する

想定に基づいてプロジェクトを開発することが、理解されず、受け入れられないこともよくある。大多数の企業のがエンジニアリングを推進力としているが、エンジニアにとって「探索」は簡単に受け入れられないものであり、そのような考え方には共感しない。エンジニアのDNAに「探索」という概念が組み込まれていないからだ。ビジネスとエンジニアリングが連携する理由と方法をうまく説明できない企業が多いのだ。

新しいビジネスモデルのアイデアを探索しても、短期的な利益は得られない。ところが短期的な利益が、ほとんどの企業で依然として最も重要な期待事項となっている。その結果、マネージャーたちは探索プロジェクトをサポートする価値を理解できない。実際にあるマネージャーがこの種の取り組みを支援する場合には、他のマネージャーたちの心に深く根付いた探索プロジェクトに適さない従来型の管理手法に直面しなければならないことになる。具体的には、意思決定者と小規模で迅速でアジャイルなチームとの間のミスマッチにつながることが多い。


新たなビジネスモデルを開発する際に重要なのは、その最も重要ポイントを継続的にテストし続けることだ。


将来に向けた展望

ビジネスモデルの革新は大きな挑戦であり、容易には達成できない。このような冒険に挑む企業やチームは、多くの不確実性、未開拓の新たなスキル、これまでに直面したことのない社内外の障害などに対処することとなる。新たなビジネスの開発に必要以上に多くのリソースや時間を浪費することを防ぐ鍵は、最重要ポイントを継続的にテストし続けることだ。ソリューション開発を完了して、それを市場に投入して顧客が購入してくれることを祈るのでなく、早い段階で顧客やパートナーからフィードバックを得てプロジェクトを進めつつビジネスモデルを改善することで、プロジェクト全体の成功の可能性を担保することが大切だ。

ビジネスモデル・ナビゲーターは、企業のビジネスモデルを体系的に構築・再構築するための手法である。ビジネスモデル・イノベーション・パターンカードと合わせて利用することで、経営幹部や戦略イノベーターにとって強力な選択肢となる。ビジネスモデル・ナビゲーターについての詳細は、公式ウェブサイトを参照してほしい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「ビジネスモデル検証の課題を乗り越えるための4つの画期的なアイデア("4 Inspiring Ideas to Overcome Challenges when Testing Innovative Business Models")」という、革新的なビジネ スモデルをテストする際に直面する共通の課題に対する効果的なソリューションに関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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