原子力技術のリーディング企業によるEVバッテリーリサイクル事業への参入("How a Nuclear Technology Leader Entered EV Battery Recycling")
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元Seconds"社(旧BMI Lab社)のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。
今回のブログは「原子力技術のリーディング企業によるEVバッテリーリサイクル事業への参入("How a Nuclear Technology Leader Entered EV Battery Recycling")」という、サーキュラーエコノミー時代における事業転換と新規事業開発についてのお話です。では本文をお楽しみください。
原子力技術のリーディング企業によるEVバッテリーリサイクル事業への参入("How a Nuclear Technology Leader Entered EV Battery Recycling")
2025年9月3日
原子力技術のリーディング企業によるEVバッテリーリサイクル事業への参入
(Seconds"社ウェブサイト"のブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)
原子力燃料サイクル分野で世界的に知られるフランスの産業グループは、自社の冶金技術をEVバッテリーリサイクル分野に活用したいと考えていた。そこで当社は、3年にわたり市場分析、ビジネスモデル設計、そして明確な意思決定ポイントの策定を支援した。その成果として、フランス北部におけるバッテリー部品関連の合弁事業が立ち上がり、さらにパイロットリサイクルプラントの建設も進められている。

フランスを拠点とする原子力技術分野における世界的リーダー企業は、自社の強力な冶金技術力を活かし、今後成長が期待されるEVバッテリーリサイクル市場における事業機会の探索を進めようとしていた。研究開発により、より持続可能かつ効率的なリサイクルプロセスの技術的実現可能性は確認されていたものの、ターゲット顧客、市場地域、さらにはバリューチェーン上でどのポジションを担うべきかといった商業化への道筋は、依然として不透明であった。
課題
同社は当初、自社の冶金技術に関する専門知識を活かし、より優れたリサイクルプロセスの開発に注力していた。しかし、その一方で、次のような複数の課題が浮上していた。
・バッテリーのバリューチェーンにおいて、同社はいかなる役割を担うべきなのか。
・自国以外では、どの市場をターゲットとすべきなのか。
・さらに、既存プレイヤーや既存の提携関係が存在する中で、どのように自社のポジションを確立すべきなのか。
当社チームのアプローチ
当社チームは、同社の戦略チームおよびプロジェクトチームと緊密に連携し、以下のような体系的な検討を進めた。
・市場分析:
ステークホルダーや専門家へのインタビュー、市場動向の分析などを通じて、有望な機会領域を特定するための包括的な調査を実施した。
・ビジネスモデル開発:
当社独自の「サーキュラー・エコノミー・ナビゲーター(Circular Economy Navigator)」フレームワークを活用し、想定されるビジネスモデルおよび循環型エコシステムの構想を策定した。また、市場の発展予測やバッテリー回収量に関する仮説をもとに、仮説ベースの財務予測を作成した。
・検証活動:
シュトゥットガルトおよびフランクフルトで開催された業界イベントへの参加を含む、ターゲットを絞ったアウトリーチ活動を通じて各種仮説を検証するとともに、潜在的なパートナーや顧客から関心度やフィードバックを収集した。
成果
この共同作業の成果として、以下の点を詳細に記述した戦略ロードマップを作成することができた。
・市場ニーズおよび同社の能力に整合した形で、相互に関連する複数のビジネスモデルを段階的に展開していくための、ビジネスモデル・ポートフォリオ・ロードマップ。
・市場動向と社内体制を考慮した、明確な投資判断ポイントの時系列マップ。
・既存のパートナーシップが参入障壁となっていた地域における市場ポジショニングに関する洞察。これにより、戦略的な観点から国内市場における事業機会に焦点を絞り込むことが可能となった。
主な学びと今後のステップ
これらの知見を踏まえ、同社はフランス北部におけるバッテリー部品の生産拠点設立に向けた合弁事業を開始した。また、本プロジェクトで構想された革新的なプロセスの実用化を目指し、パイロットリサイクルプラントの開発も進めている。
この取り組みは、戦略的先見性と技術革新を統合することの重要性を改めて浮き彫りにした。また、サーキュラーエコノミーにおけるアプローチは、エコシステム内でのパートナーや協力関係の重要性、さらにはそれらへの依存度によって左右されるだけでなく、事業化までの長期的な時間軸、投入資源量の不確実性、さらには規制上の障壁による不確実性の高まりによっても大きく異なることを示している。
同社は、市場における自社の役割を体系的に検討し、各種仮説の検証を重ねることで、複雑かつ競争の激しい市場環境において、根拠に基づいた意思決定を行える体制を構築した。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。



