人事部門の協力なくしてイノベーション戦略の成功はありえない

イノベーション, ビジネスモデル・イノベーション, 事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏のブログをご紹介します。

今回は「人事部門の協力なくしてイノベーション戦略の成功はありえない(”Forget your innovation strategy if the HR Department is not on board”)」という、企業内イノベーションの成功のための人材確保についてのお話しです。
特に最近はDX関連で、弊社に人材や教育のご相談を受けることが多くあります。本ブログにもあるように、社内人材と社外人材をうまく活用することがコツではないかと思います。では本文をお楽しみください。

人事部門の協力なくしてイノベーション戦略の成功はありえない

2017年9月28日  ダン・トマ氏
人事部門の協力なくしてイノベーション戦略の成功はありえない
(ダン・トマ氏が”The Corporate Startup bookウェブサイト“に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

資金、ノウハウ、資産、これらはすべて企業の人材によって生み出される。

企業におけるすべてのプロジェクトの成功失敗の背景には人間がいること、それは何の驚きでもない。しかしどんな経歴で、どんなことでやる気を起こし、何を怖れ、どんな人間になりたいのかは、人それぞれ異なる。

金融資産と異なり、人材は一まとめに扱える資産ではない。ジム・コリンズ氏の書籍「Good to great(邦題:ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則)」において、同氏はバスに例えてこの点を指摘している。このバスの比喩を簡単に言うと、会社はバス旅行のバスのようなものであり、名簿の乗客が決められた座席に座ってはじめて出発できる。

変化を続ける環境下で、どのようにすれば既存のビジネスモデルから効率的に利益を上げつつ、同時にイノベイティブであり続け、成長し続けられるのか、これが現代のほとんどの企業にとってのジレンマである。スタートアップの段階を過ぎた企業は、どの企業もこのジレンマに直面する。どのように効率を最適化し、それと同時に新たな成長の道を探索するか、それが両利き経営のコンセプトの根本だ。

新たな成長の道を探索することは既存の資産から利益を上げる事とは異なるため、それぞれの活動を実施するためのツールやプロセスも異なる。しかし変える必要があるのはそれだけではない。キャッシュ・カウから「ミルクを絞りだす」のに長けた人材は、イノベーターには全く適さないことが多く、その逆もまた真である。したがって、「バスの決められた座席」に、決められた人を座らせることが重要になるのだ。

2016年の中頃に、世界最大の金融機関の一つでグローバル・イノベーション部門責任者を務める人とディナーを共にする機会があった。会食での会話ははずみ、当然ながらイノベーションに関する人材獲得の話題もあがった。

グローバル・イノベーション部門責任者として、彼には自社のイノベーション戦略の実現を統括する責任があった。問題は自社のイノベーション戦略とアサイン可能な人的リソースが完全に乖離していることだった。これが彼が乗り越えなければならない最初でおそらく最大のギャップであった。

基本的にデジタル化とイノベーションが同社の必達事項であったが、アサイン可能な人材は「銀行マン・銀行ウーマン」ばかりだったのだ。同じことを20年以上やり続けてきた人間に「新しい事」をさせなければならない。

実際問題として、何度イノベーション・ワークショップを受講したとしても、これらの人の考え方は急には変わらない。イノベーション戦略実現のために同社ではキャッシュ・カウから「ミルク絞り」を続けなければならないのだから、このこと自体は問題でない。

「新たな血」つまり銀行業界の経験を持たない人や生粋のデジタル人材などをイノベーション部門に入れたいと思ったときに、この部門責任者にとっての問題が始まった。人材募集、選定、採用の仕方がわからないことはさておき、人事部門がこの仕事の重要性すら理解してくれなかったのだ。その結果、イノベーション部門には「銀行」人材しかアサインできなかった。

このような人材は人事部門が数十年採用し続けてきた、自信をもって採用できる人材である反面、これらの人たちには企業が両利きの柔軟さを持つことがツールやプロセス、KPIよりも重要であることがわからなかった。

何度かミーティングを行った後で、人事部門には彼の提示している要件に合わせて採用するのは無理そうだ、と彼は気づいた。だからこの課題を自分自身で解決しなければならなかった。

彼が見出した画期的な方法は、フリーランス人材を雇うことだった。なぜならフリーランス人材なら人事部門の調査プロセスを通す必要なく、自部門の予算で直接雇えるからだ。

彼のやり方がうまく機能するかどうかは時間がたってみないとわからないが、彼との会話には2つの興味深い側面がある。

1.企業のイノベーション戦略が成功のチャンスを得るためには、イノベーション・エコシステムのすべての要素(人材を含む)が全て同期し、そして共通の目標に向けて嚙み合わなければならない。
2.未来の仕事の仕方はプロジェクトベースになるのかもしれない。あるプロジェクトのために特定分野の専門家が集まり、プロジェクト完了後は別のプロジェクトに向かう。同様の所見に至った思想家を何人か知っている。

人事部門は企業の重要な間接部門だ。これまでずっとほかの部門から軽んじられてきたにもかかわらず、プロジェクトを実行するために必要な人材の供給源は常に人事部門である。企業文化の重要性が戦略に勝るのと同様に、人事部門の協力なくしてイノベーション戦略の成功はありえない。

※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
ダン・トマ氏のイノベーション記事をご紹介するこちらのブログシリーズ、2021年の掲載は今回で終了です。2022年も企業内のイノベーション・システム導入や、イノベーション会計など、引き続きダン・トマ氏のブログ記事を紹介してまいります。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。

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