みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。
今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』著者ダン・トマ氏の最新書籍『The Innovation Accounting』に関するブログ記事をご紹介します。
同書の日本語版『イノベーション会計』を本年中に国内で出版予定です。
今回は「イノベーション投資委員会("The Venture Boards")」で、企業内で新事業を適切に評価し推進していくエンジンについてのトピックです。
イノベーションプロジェクトがアイデア創造/事業設計段階から、事業仮説を検証する段階に移ると、プロジェクトの推進には発想や創造力よりも規律や努力が必要になってきます。ところが、企業内で各新事業チームが自ら規律をもってプロジェクトを推進していくのは容易でありません。各プロジェクトチームが検証を進めやすくするために、イノベーションの検証・推進をシステム化したものがイノベーション投資委員会です。
では本文をお楽しみください。
イノベーション投資委員会
~イノベーションをアイデアで終わらせず実現にまで引き上げる仕組み~
2020年7月14日 ダン・トマ氏
イノベーション投資委員会
ダン・トマ氏が"The Innovation Accounting bookウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)
イノベーション会計システムにおいては、新事業チームのレベルでイノベーションを測定するだけでは不十分です。イノベーションは、企業の生き残りや将来の収益性のための重要な活動となりました。したがって、企業の将来製品やサービスの構築プロセスに、ますます多くの利害関係者が関与するようになってきています。
利害関係者の一部に情報を与えないままにしておくのは得策ではありません。だからこそ、新事業チームレベルで測定したものを社内の他の利害関係者に共有する必要があるのです。
しかしながら、既にお話ししたような指標で示される詳細なレベルの細かな情報を全員が知る必要はありません。
社員3万人超の企業の経営トップ層には、例えば個別のチームの学習速度を把握するのに必要な時間は到底割けません。彼女に必要なのは、イノベーション投資が望ましい成果に向かって進んでおり、戦略の目指すところを実現する役に立っているのかを知るための指標なのです。したがって、イノベーション会計システムの管理部分は、一方で、フィルターとしての役割を果たし、社内の利害関係者に対し、自社のイノベーションの進捗状況や活動実績に関する最も重要な情報のみを提供します(前述した抽象化の原則)。
その一方で、管理的イノベーション会計を用いて適切な情報に狙いを定めることで、適切かつ迅速な意思決定が可能になります。
多くの人々が、イノベーションを(イノベーション会計の連想を含めて)魅力的で神秘的なものだと捉えています。確かにイノベーションによって活気がもたらされ、適切に管理すれば、世の中を変えるインパクトを持つ可能性があります。しかし、イノベーションとは習得すべき、管理すべき規律なのです。
イノベーション会計が機能するためには、知識(教育)と創造力の喚起が必要ですが、何よりもまして「集中」と「規律」が要求されます。もしイノベーションの定量評価プロセスに「知識」や「規律」が欠けていたら、イノベーターの創造性と努力は無駄に終わってしまうでしょう。
もちろんイノベーションを体系的に実行すること以外にも必要なものは多々あり、それはたとえば明確なアントレプレナーシップ戦略だったり、アントレプレナーシップ管理の原則だったりします。それらは、老舗企業にも、公共サービス機関にも、そして新事業にも同じ様に求められます。しかしアントレプレナーシップの根本は、体系的なイノベーションの実行なのです。
イノベーション会計システムのこの階層で規律をもたらす仕組みが、いわゆるイノベーション投資委員会です。投資委員会とは、企業(または部門)のイノベーション・パイプラインに責任を負い、継続的に投資/撤退の判断を行う社内メンバーのグループです。
基本的に、このグループは企業内のベンチャーキャピタル・ファンドとして振る舞い、企業のイノベーション・チームに対する投資、継続支援、評価測定を担います。
もし製品ライフサイクルの初期段階であれば、チームに対する投資は時間だけで、チームは実験を実施する時間を与えられます。製品ライフサイクルを事業アイデアが進んで行くにつれ、財務投資や設備投資などのより現物的な投資が実施されるようになります。
基本的に、投資委員会を機能させるには、自社に「マイルストーン型の資金調達」を導入する必要があります。エリック・リースが『スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント(2018年、日経BP)』の中で述べているように、「マイルストーン型の資金調達」は、スタートアップが資金調達をする道筋に沿っています。
新規事業を興す資金を必要とする事業アイデア担当チームは、投資ラウンドごとに資金配分の投資委員会メンバーにプレゼンテーションを行い、審査を受けます。資金提供額は、チームが達成すべき目標やマイルストーンに基づいて決められます。アーリー・ステージでは学びのために資金供与を行い、レイター・ステージでは事業の規模拡大のために資金供与します。
誰しも負けを認めるのは難しく、そこに疑う余地はありません。そしてイノベーションでは、プロジェクトの大半は成功しません。イノベーション投資委員会のメンバーは、「何を学んだのか?」は「何を達成したのか?」と同じくらい重要な質問であることをチームに常々言い聞かせるべきです。ベンチャーキャピタル同様に、企業イノベーションはポートフォリオの勝負です。方針転換が必要な時には新事業を方針転換し、うまくいかないプロジェクトは中止して、資本を他に割り当てるのです。
※本記事のオリジナルはダン・トマ氏が定期的に寄稿している「The Future Shapers」に掲載されたものです。
いいかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は「イノベーションにおけるCFOの役割("From Review To Preview")」という、企業でイノベーションを推進していくうえでのCFOの役割の変化についてのお話です。
WRITER
- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
- 株式会社マキシマイズ代表取締役
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」を共訳/監訳。