2021年注目の5つのビジネスモデル・パターン("The 5 Business Model Patterns You Should Follow in 2021")

イノベーション, ビジネスモデル・新規事業創出

みなさんこんにちは。マキシマイズ代表の渡邊です。今回も、既存事業を持つ大企業がシリコンバレーのスタートアップに負けない画期的な新規事業を創造するために、インダストリー4.0の一環としてスイスで開発された手法である『ビジネスモデル・ナビゲーター』開発元BMI Lab社のブログを皆さんにご紹介します(※BMIとはBusiness Model Innovation:ビジネスモデル・イノベーションの略です)。

今回のブログは「2021年注目の5つのビジネスモデル・パターン("The 5 Business Model Patterns You Should Follow in 2021")」という、最近のビジネスモデル・パターンのトレンドについてのお話しです。DXの深化に伴う製造販売からサービスへのビジネスモデルの変化、知財活用など自社が競争力をもつ領域への特化、サステナビリティ、サプライチェーン・リスクなど、昨今ではビジネスモデルがより戦略的になってきています。本ブログでは実例をもとにビジネスモデルの最新トレンドを紹介しています。では本文をお楽しみください。

2021年注目の5つのビジネスモデル・パターン("The 5 Business Model Patterns You Should Follow in 2021")

2020年12月11日
2021年注目の5つのビジネスモデル・パターン(BMI Lab社ウェブサイトのブログ記事を、同社の許可を得て翻訳、掲載しています)

世界はデジタル化している。少なくともコロナ禍のパンデミック以降はそうだ。昨今、確固たるビジネスモデルの重要性を証明するデジタル化の面白い例が多数出現している。フランスでは、2度目のロックダウンにおいて、図書館や玩具販売店を含め、生活必需品以外のすべての店舗やバーが閉鎖された。その一方で、世界最大のオンライン小売業者であるAmazonは事業活動を継続しており、今や有名になった「ブラック・フライデー」をこれまで以上に宣伝している。書店を開く必要があるのか​​、Amazonの「ブラック・フライデー」を禁止すべきかについての政治的、社会的な議論が白熱する中、とある疑問が浮かび上がってきた。すでに高度にデジタル化された世界において、書店など昔ながらの店舗はどうやったら生き残ることができるのか?

同じ疑問は、B2B企業やB2G企業にも当てはまる。モノの開発、製造をするモノづくり企業は、自社製品がソフトウェアにとって代わられるであろう世界で、どうすれば生き残ることができるのか?

スイスのザンクトガレン大学技術経営研究所のオリバー・ガスマン教授とカロリン・フランケンバーガー教授の研究によると、全世界のビジネスモデルの90%は、既存の60種類のビジネスモデル・パターンの組み合わせであることがわかっている。これらの60種類のパターンを正しく理解し、対象業界に置き換え、組み合わせ、流用すれば、自社独自のビジネスモデル・イノベーションを生み出すための青写真を描くことができる。

この研究成果を現在の世界的なデジタル化のトレンドに当てはめて、デジタル世界において企業が生き残るために、あるいは新たな価値を生み出すために、活用すべき5つのビジネスモデル・パターンを特定した。以下では、各ビジネスモデル・パターンを活用例とともに紹介したい。

ビジネスモデル・パターン1:仮想化/VIRTUALIZATION

仮想化のパターンは、従来の現実空間での活動を、仮想の作業空間など仮想環境で模倣することを意味する。顧客にとっての価値は、好みの場所から好みのデバイスで活動に参加できることだ。その対価として、顧客は仮想サービスの利用に対する料金を支払う。

2021年も、旅行したり人と直接会ったりすることは難しいと思われる。高性能なオンライン・コラボレーション・ツールで実現可能となったオンラインでの会議やワークショップによるリモートワークは、標準的な働き方として定着しつつある。ZoomやMicrosoft Teamsは、会議やセミナー等の手配や実施を仮想化した。MiroやMuralは、オンラインでの会議やセミナーにおいて実施する作業活動を仮想化した。

このパターンを使用している企業の例:

ビジネスモデル・パターン2:サブスクリプション/SUBSCRIPTION

この2番目のパターンは、顧客が製品やサービスを利用するために、月契約や年契約で定期的に料金を支払うというビジネスモデルの形態を指す。たいていは顧客側では利用料金の削減やサービス利用時間の拡大などの恩恵を受けられ、企業側にとっては安定した収入源にできるというメリットがある。

どんなものでもサービス化できる可能性がある。いくつかの業界にとっては、これはまったく新しいルールと言える。ハードウェア事業者は、自社のソリューションを「サービス(as a Services)として」提供することで、顧客側の初期投資の障壁を下げることができ、また支出が資産でなく運用費用となる。社内コミュニケーション仮想化ツールのSlack、Shopify、Hubspotの各社は、ユーザー企業が多額の先行投資をしなくてもソフトウェアを利用できるようにしている。消費者市場では、2010年代半ば以降ストリーミングが爆発的に普及し、音楽、映画、テレビ番組、ドキュメンタリー、ゲームなど、あらゆるものがストリーミングされるようになった。ネットフリックスからディズニー、スポティファイ、アップルまで、消費者はもはやエンターテイメント商品を購入する必要はない。その代わりに、エンターテイメント・サービスに加入するのだ。

このパターンを使用している企業の例:

ビジネスモデル・パターン3:オーケストレーター/ORCHESTRATOR

このパターンでは、企業はバリュー・チェーンにおける自社のコア・コンピテンシーに集中する。そして主体的にバリュー・チェーンの再設計や調整を実施し、自社のコア・コンピテンシー以外の工程をアウトソーシングする。こうすることで、企業側では自社のコア・コンピテンシー以外の工程で発生するコストを削減し、その工程を担うサプライヤーの規模の経済の恩恵を受けることができる。また、コア・コンピテンシーに集中することで、自社の事業活動のパフォーマンスを向上させることができる。

マッキンゼーによると、2025年には全世界の売上高の30%が企業や業界の垣根を超える形で生み出されるとのことだ。これは、3社以上の企業が対等な立場で協力し、いずれの企業も単独では提供できないさまざまなサービスを生み出すパートナーシップの発展を意味している。このようなビジネス・エコシステムにおいて、企業にとっての課題は、すべての関係者を取りまとめるオーケストレーション能力を身に着けることだ。たとえば、ヘルベティアでは2017年の初めから、ザンクトガレン大学と協力してHOMEという名のビジネス・エコシステムの共同開発を進めている。今年ラスベガスで開催されたCESでは、ソニーがインパクトのある車載システムを搭載した電気自動車のコンセプトカー「Vision-S」を発表し、世界中を驚かせた。ソニーは、ボッシュ、NVIDIA、コンチネンタルなどの世界有数の企業と提携して、同社単独では設計できない自動車部品を開発したのだ。

このパターンを使用している企業の例:

ビジネスモデルパターン4:部材の節減/DE-MATERIALIZATION

部材の節減(DE-MATERIALIZATION)は、材料をより少なくする製品、または材料をまったく必要としない製品を開発し、生産と物流に必要な資源を削減することを目的としている。製品の機能を維持しながら特定の材料または部品を製品から取り除くために、最新のインテリジェントな製品設計技術を活用する。

2018年にGyre Instituteが実施した調査によると、スーパーやコンビニ等の買い物時のビニール袋の平均使用時間は12分とのことだ。それ以外にも考えを巡らせてみると、コーヒー・カップ、歯ブラシ、ランニング・シューズなど、様々なものが廃棄を前提とした素材で作られており、短期間使用されて廃棄されている。こうした現実を踏まえると、部材の節減(DE-MATERIALIZATION)パターンのもたらす価値は明白だ。Bluelandは、使い捨てプラスチック容器を削減し、輸送時の重量と保管スペースを節減する家庭用の洗浄商品を開発した。アディダスの「Futurecraft Loop」は、主原料以外の素材をすべて省いた3Dプリント・シューズだ。主原料以外の素材を除去して単一素材にすることで、使用済みの靴を細断し、溶かしてペレットに変え、新しい靴に再利用するという極めてシンプルなリサイクル・プロセスが可能となった。

このパターンを使用している企業の例:

ビジネスモデルパターン5:地産地消/LOCALISATION

このパターンでは、特定の地理的環境内に企業あるいはサーキュラー・エコシステムがどう組み込まれているかを総合的な視点で見る。限定された地域内で地元の資源を使用すれば、エネルギー消費に起因する環境への悪影響が軽減される(例:物流に伴うエネルギー消費の削減)。また地域内で資源調達することで、資源調達における自社のコントロールを強化できる。

コロナ禍のパンデミックはグローバリゼーションと自由貿易を後退させ、おそらく非常に長い間、世界の生産ネットワークの仕組みを混乱させることになった。このような事態により、例えば食品業界で地元での調達がいかに貴重であるかが浮き彫りになった。InFarmは、スーパーマーケットの野菜売り場に屋内型の農作物生産ユニットを設置する都市型農業スタートアップだ。同社は農作物生産ユニットを遠隔制御し、理想的な条件下でハーブや野菜を栽培している。別のケースとして、製薬業界ではアジア地域のサプライヤーへの依存度が高いことから、ヨーロッパやアメリカの企業や政治家は、重要な医薬品や医療機器の地域内調達を奨励することを検討している。

このパターンを使用している企業の例:

ビジネスモデル思考のもたらす付加価値

これら5つのパターンと実例に光を当てることで、ビジネスモデル思考のもたらす付加価値を示すことができたのであれば幸いだ。会社や業界が脅威にさらされ混乱するたびに一から車輪を再発明しようとするのでなく、成功企業の経験をもとにして、そこから学ぶ方が高い価値を得られるのだ。イノベーションの多くは、別の業界や市場、あるいは別の状況下で実在した成功例の派生版であることを忘れないでほしい。

もし自分のスタートアップ、部署、または企業に対するデジタル化の影響を考える必要性が生まれたら、是非ビジネスモデル・ナビゲーターの紹介ページを参照頂きたい。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ビジネスモデル・ナビゲーターを日本企業にも普及させるべく、ワークショップやプロジェクト支援など様々な支援サービスを提供しております。ご興味の方は是非お問い合わせください。
次回は、「オンライン・コラボレーションで画期的なアイデアを生み出す方法("How to develop innovative ideas together – online")」という、オンライン環境での新事業アイデア創造法に関するブログ記事をご紹介予定です。

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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