AIはCEOの役割を変革するだろう――しかし、あなたが考えているような形にではない(“AI Should Reshape the CEO Role—But Not in the Way You Think”)
みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。
今回は、「AIはCEOの役割を変革するだろう――しかし、あなたが考えているような形にではない(“AI Should Reshape the CEO Role—But Not in the Way You Think”)」という、AI時代における企業の意思決定のあり方とCEOの役割の再定義についてのお話です。では本文をお楽しみください。
AIはCEOの役割を変革するだろう――しかし、あなたが考えているような形にではない(“AI Should Reshape the CEO Role—But Not in the Way You Think”)
2026年3月17日
ダン・トマ氏
AIはCEOの役割を変革するだろう――しかし、あなたが考えているような形にではない
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

データはかつて倉庫に蓄積されていた。その後、データベース化と可視化を経て、いまや取締役会において、あたかも一人の役員のように意思決定に関与し始めている。
私たちは「アルゴリズムCEO」の時代に突入しようとしているのだろうか。CEOは職を失うことを恐れるべきなのだろうか。それとも、意思決定において「人間が関与する一員」としての役割を担うことになるのだろうか。ロボットが経営陣に取って代わるわけではない。むしろAIシステムが、どの戦略的イニシアチブや方向性に資金が配分されるか、どの市場に参入するか、どの投資や賭けが見送られるかを、静かに方向づけていくのである。
長年にわたり、経営幹部は成長に関する戦略的選択において、データに基づく偏りのない意思決定を行うことに苦慮してきた。従来の財務指標は、何がうまくいったかという過去を示すことはできるが、何がうまくいくかという将来を示すものではない。そのため、イノベーション会計システムが整備されていない状況では、リーダーは直感や政治的な思惑に基づいて意思決定を行ったり、あるいはその場で最も強く主張されるイニシアチブを選びがちである。
AIは、こうした問題を解決しうる。初期段階における事業成功の兆候を継続的に評価し、製品やサービスの普及曲線をモデル化し、下振れリスクに対するストレステストを行い、成長への投資ポートフォリオ全体を比較することができる。しかも、派手なパワーポイント資料や社内政治に左右されることなく、偏りのない判断を維持する。
確かにそれは、理にかなっており、効率的で、より安全である。
しかし、ここに落とし穴がある。
初期段階の画期的なイノベーション・プロジェクトは、データ上では著しく見劣りする。規模が小さく、非効率であり、既存の中核事業に比べて常に業績が劣るためである。
つまり、選択肢の検討や意思決定を支援するアルゴリズムを訓練する場合、おそらく過去の実績データに基づいて学習させることになる。ほとんどのLLM(大規模言語モデル)の学習は、このように行われている。その場合、CEOの意思決定を支援するAIは、既存の業界を破壊する革新的な取り組みへの投資よりも、漸進的な改善を常に優先することになる。
しかし、既存の中核事業の枠を超えて成長し、企業の次のS字カーブを描くためには、既存のビジネスモデルの延長線上にある発想を打ち破る必要がある。
つまり、本当の危険はAIがCEOに取って代わることではない。危険なのは、AIが意思決定に組み込まれることで、CEOが過度に合理的になり、中核事業以外の分野への投資にますます消極的になることである。
過度に合理的な企業が業界を再創造することはほとんどない。
したがって、AIによる意思決定支援と直感に頼ることのいずれが優れているかを議論するのは適切ではない。そうではなく、AI時代における意思決定権限をどのように再設計するか、そして企業が将来にわたって競争力を維持するために、投資の意思決定においてAIがどのような役割を果たすべきかを議論すべきである。
意思決定プロセスの改善と、企業の次の戦略的方向性の明確化を目的としてAIを取締役会に導入する際に、考慮すべき3つのポイントは以下のとおりである。
1.アイデアではなく前提を評価するためにAIを用いる:AIにどのアイデアが「良い」か「悪い」かを判断させるのではなく、各イニシアチブの根底にある前提を評価するために活用する。例えば、新製品のアイデアが6か月以内にユーザー数が倍増することを前提としている場合、AIは過去の導入動向、市場シグナル、競合他社のデータを分析し、どの前提に対する裏付けが弱いのか、強いのか、どの前提が不確実なのかを明らかにすることができる。このアプローチにより、組織はどのアイデアが選ばれたかだけでなく、なぜそのような意思決定がなされたのかという知識を保持できる。時間の経過とともに、企業は検証済みおよび否定された前提の蓄積を構築し、将来のリーダーが同じ試行錯誤を繰り返すことなく、より迅速かつ的確な意思決定を行えるようになる。
2. 事業活動指標と事業成果指標を区別する:AIは何千もの業務指標や事業活動指標を追跡することができるが、その真価は、それらの事業活動を売上成長、顧客維持、市場シェア拡大といった実際の事業成果に結びつける点にある。事業活動と事業成果を区別することで、AIは真に結果を左右する要因に関する組織的な知識を保持する。リーダーはこの知識を将来の意思決定に活用でき、過去の取り組みから得られた教訓が、煩雑なダッシュボードや見せかけの指標に埋もれて失われることを防ぐ。時間の経過とともに、チームや戦略が変化しても、どの要因が一貫して成功を生み出すのかを企業が把握できるようになる。
3. アルゴリズムにポートフォリオのバランスを判断させつつ、大きな不確実性を伴う重要な投資判断については人間の判断を残す:AIはパターンの分析と漸進的な改善の最適化に優れている。過去のデータに基づいて期待収益を最大化するポートフォリオの調整を提案し、過去の意思決定や成果の推移、リスクの大きさに関する知識を蓄積し、それを活用可能にする。しかし、真に変革的な意思決定――すなわち新規市場への参入、破壊的製品の開発、ビジネスモデルの再構築――には、経験、直感、文脈に裏打ちされた人間の判断が不可欠である。こうした重要な意思決定に人間を関与させることで、組織はAIでは定量化できない暗黙的な知識を保持し、純粋なデータ駆動型の最適化では失われかねない戦略的知見を維持することができる。
AIは取締役会の思考を厳しく問い直すために活用されるべきであり、企業の成長目標や戦略的な志向を定めたり制限したりするものであってはならない。
データ主導でも直感主導でもなく、システム主導であること――それが、これからのCEOの姿である。すなわち、前提を検証するための実験には規律を持って臨み、リスクを明確に認識し、変革的な取り組みへの投資――とりわけ、過去のデータに基づいて訓練されたAIモデルが好まないような重要な投資判断に対して責任を負う。
Outcome社のポートフォリオ管理およびイノベーション会計プラットフォームであるSATORIは、40以上のKPIを追跡することで、経営陣の意思決定の質を高めます。これにより、イノベーション投資が戦略目標にどのように貢献しているかが明らかになると同時に、イノベーションシステムの効率性を測定することが可能となります。
いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください
WRITER

- 渡邊 哲(わたなべ さとる)
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株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師
東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。



