Go-to-Marketの進化:事業化に向けた学習システムの構築(“The Evolution of Go-to-Market: Building a Commercial Learning System”)

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みなさんこんにちは。マキシマイズの渡邊です。今回も書籍『イノベーションの攻略書(原題:The Corporate Startup)』、『イノベーション・アカウンティング(原題:The Innovation Accounting)』の著者であるダントマ氏のブログ記事をご紹介します。

今回は、「Go-to-Marketの進化:事業化に向けた学習システムの構築」という、製品開発だけでなく、価格設定や販売チャネル、顧客獲得などの事業化プロセスにおいても、仮説検証を通じて不確実性を体系的に低減する「商業的成功に向けた研究開発(Commercial R&D)」の重要性についてのお話です。では本文をお楽しみください。

Go-to-Marketの進化:事業化に向けた学習システムの構築(“The Evolution of Go-to-Market: Building a Commercial Learning System”)

2026年6月18日
ダン・トマ氏
Go-to-Marketの進化:事業化に向けた学習システムの構築
(ダン・トマ氏が"OUTCOME社ウェブサイト"に掲載したブログ記事を、本人の許可を得て翻訳、掲載しています)

過去20年間で、企業は技術的な不確実性に対処する能力を高めてきた。業界を問わず、製品開発ではリーン・スタートアップやアジャイル開発、デザイン思考といった反復的な手法が広く採用されるようになった。今や、プロトタイプやMVP(実用最小限の製品)、パイロットプロジェクトなどは、企業にとって馴染みのあるものとなっている。その根底にある考え方は単純である。不確実な要素があるならば、大きな意思決定を行う前に、早期から継続的に検証すべきだということである。

しかし、市場投入(Go-to-Market)の段階になると、多くの組織は異なる考え方に立ち戻ってしまう。

価格が設定され、販売チャネルが選定され、ポジショニングが決定され、営業活動の進め方が設計される。そして、これらの大部分は、依然として「実験による検証」ではなく「計画策定」の対象として扱われている。

その結果、企業の不確実性への対処方法に構造的な不整合が生じている。「技術的な不確実性は反復的なプロセスを通じて検証すべきものと見なされる一方、事業化に伴う不確実性は事前の計画によって対処できるものと見なされている。」そこには、製品開発に関する意思決定には学習が必要である一方、事業化に関する意思決定は十分な確信を持って事前に計画できるという暗黙の前提がある。

こうした考え方が疑問視されることはほとんどない。しかし、企業が開発した製品から最終的にどれだけの価値を獲得できるかに直接影響するため、本来はその妥当性が問われるべきである。

残念ながら、こうした考え方の問題点が明らかになるのは、通常、製品の市場投入後、最初の販売実績が得られる段階になってからである。企業は、顧客の購買行動が想定と異なること、価格設定が購入の障壁となっていること、販売チャネルが期待どおりの成果を上げていないこと、あるいはパートナーの役割が想定以上に重要であることなどに気づく。しかし、その時点では、製品開発、事業化、組織体制に関する重要な意思決定はすでに確定しており、変更が難しくなっている。「問題は、学習が行われていないことではない。新たな情報に基づいて方向転換(ピボット)するためのコストがすでに高くなった段階で学習が行われるため、本来よりも学習のタイミングが遅く、必要以上のコストがかかってしまうことにある。」

こうした事業運営のあり方は、組織構造によってさらに強化されている。製品開発、マーケティング、営業、事業開発は、それぞれ独自の予算、インセンティブ、評価指標を持つ別々の部門に分かれている。このような部門間の役割分担は責任の所在を明確にする一方で、仮説検証から計画の実行へと責任が引き継がれる転換点を生み出している。引き継ぎ自体が問題なのではない。製薬、医療機器、化学、バイオテクノロジーなどの業界では、こうした引き継ぎは必要かつ適切なものである。問題は、その後に起こりがちな、仮説の検証から計画の実行への転換にある。

この段階で、多くの組織は、製品開発における体系的な仮説検証から、市場投入(Go-to-Market)における体系的な計画の実行へと移行する。

しかし、多くの組織に欠けているのは、技術的な不確実性の低減に向けた取り組みに相当する「商業的成功に向けた学習(Commercial Learning)」という体系的な取り組みである。これは、製品をどのように市場に投入し、価値を創造し、事業の成長につなげるかについての不確実性を体系的に低減するものである。「価格設定、販売チャネル、ポジショニング、顧客の購買行動、製品の導入・普及パターン、顧客維持の動向、ビジネスモデルなどは、検証すべき仮説ではなく、あらかじめ決定すべき事項として扱われることが多い。」

顧客ニーズの検証、製品コンセプトのテスト、市場からのフィードバック収集を行わずに、製品を市場投入しようとする開発チームを想像してみてほしい。ほとんどの組織は、そのような提案を即座に却下するだろう。しかし、そうした組織の多くが、価格設定、販売チャネル、顧客による製品の導入・利用、顧客獲得、顧客維持などについて、ほとんど検証されていない仮説に基づいて製品を市場投入することには抵抗を感じていない。この矛盾は驚くべきものである。

これは、計画策定、専門分野別の組織、部門間の引き継ぎを否定するものではない。複雑な組織においては、これら3つはいずれも必要である。また、Go-to-Market(市場投入)を常に製品開発と一体化すべきだと主張しているわけでもない。業界によっては、そうした一体化が可能であり、望ましい場合もある。一方、別の業界では、現実的でなかったり、そもそも必要がなかったりする場合もある。

真の課題は別のところにある。

企業は数十年にわたり、技術的な研究開発(Technical R&D)に投資を続けてきた。その結果、製品に対する顧客ニーズや技術的な実現可能性をめぐる不確実性を低減するための手法、ガバナンス体制、評価指標、レビューの仕組みが整備されている。一方、「商業的成功に向けた学習(Commercial Learning)」について、これと同等の体制や仕組みを構築できている企業はほとんどない。

事業化に伴う不確実性の内容は、製品ごとに異なる。ある製品では価格設定が最大の不確実性となるかもしれない。一方、別の製品では、顧客獲得、販売チャネルの有効性、顧客維持、費用や収益に関するパートナーとの取引条件、顧客の購買を促す要因、あるいはサブスクリプションモデルの事業としての成立可能性などが、主な不確実性となり得る。目指すべきは、あらゆる製品に共通する事業化のチェックリストを作成することではない。「重要なのは、事業化に関する仮説のうち、特に重要なものを特定し、不確実性の大きさと潜在的な影響度に基づいて優先順位をつけ、本格的な事業化に向けた大きな投資や経営資源の投入を決定する前に、体系的に検証を行い、その裏付けとなる検証結果を蓄積することである。」

事業化に伴う不確実性に適切に対処している企業は、すでにこうした取り組みを実践している。価格モデルや販売チャネル戦略、事業化の進め方を決定する前に、パイロットプロジェクトの実施、パートナーシップの検証、競争環境の分析、市場データの収集、重点項目の検証実験などを行っている。その狙いは、市場を完璧に予測することではない。本格的な投資拡大に踏み切る前に、不確実性を低減することである。そして、製品開発から市場投入に至るプロセス全体を通じて、学習し続ける組織となることである。

この意味で、商業化は製品開発と同様に管理されるべきである。市場投入(Go-to-Market)活動の成果は、単なる計画だけであってはならない。重要なのは、製品の成功を支える仮説の確からしさを高めるための検証結果を得ることである。

したがって、重要な問いは「いつ市場投入(Go-to-Market)を開始するか」ではない。

問われるべきは、企業が技術的な研究開発(Technical R&D)と同等の厳密さを備えた「商業的成功に向けた研究開発(Commercial R&D)」の能力を構築できているかどうかである。

顧客の購買行動、販売チャネル、ビジネスモデルが急速に変化する市場において、この違いは単なる理論上の問題ではない。より優れた成果を上げる企業は、単に優れた製品を開発する企業ではない。そうした製品をどのように市場に投入するかについて、より迅速に学習できる企業こそが、優れた成果を上げるのである。


いかがでしたでしょうか。弊社では、ダン・トマ氏が欧州企業向けに導入支援を進めているイノベーション・システムを日本企業にも普及させるべく活動しております。ご興味の方は是非お問い合わせください

WRITER

株式会社マキシマイズ代表取締役
渡邊 哲(わたなべ さとる)
株式会社マキシマイズ シニアパートナー
Japan Society of Norithern California日本事務所代表
早稲田大学 非常勤講師

東京大学工学部卒。米国Yale大学院修了。海外の有力ITやイノベーション手法の日本導入を専門とする。特に海外ベンチャー企業と日本の大手企業や団体との連携による新規事業創出に強みを持つ。三菱商事、シリコンバレーでのベンチャー投資業務等を経て現職。ビジネスモデル・ナビゲーター手法の啓蒙活動をはじめ、日本のイノベーションを促進するための各種事業を展開中。
「アントレプレナーの教科書」「ビジネスモデル・ナビゲーター」「イノベーションの攻略書」「DXナビゲーター」「イノベーション・アカウンティング」を共訳/監訳。

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